Gemmy 128 号 「最近市場で見かける長石について」
1.はじめに
最近市場で見かける長石のペリステライトを、その類似石と考えられるムーンストーン及びラブラドーライトと比較する方法で紹介します。また、めずらしい長石としてハイアロフェンを紹介します。
長石(feldspar)とは?
長石(feldspar)は地殻の約6割を占めるため広範囲に産出し、ほとんどの岩石に含まれる非常に重要な鉱物です。化学的にはアルバイト(NaAlSi3O8)、アノーサイト(CaAl2Si2O8)、オーソクレース(KAlSi3O8)を主成分とする固溶体(注1) 鉱物の総称で、その3種類の混ざり方で様々な名前がつけられています。アルバイト、アノーサイト、オーソクレースの混ざり方と一般的な長石の分類は図1の通りです。
(図1)
なお、上に示した一般的な長石の他に、バリウムを含むセルシアン(BaAl2Si2O8)、アンモニウムを含むアンモニウム長石(NH4AlSi3O8)があり、セルシアンとオーソクレースとの固溶体の中間を示すハイアロフェン等があります。
(注1) 固溶体・・・固体同士が混ざり合ったものです。固体同士が混ざり合うというイメージは湧きにくいかもしれませんが、液体である水とアルコールが混ざり合うように固体同士も混ざり合います。しかし、水と油のように固体同士でも混ざり合わない組み合わせもあり、高温では混ざり合っていても低温になると分離してしまう組み合わせも存在します。
3.ペリステライトとムーンストーン、ラブラドーライト
「ブルー・ムーンストーン」と呼ばれる長石は、これまではラブラドーライトでした。しかし最近「ブルー・ムーンストーン」の名称で売られている石でラブラドーライトではないものを見かけるようになりました。それはペリステライトと呼ばれる長石の一種で、、ラブラドーライトやムーンストーンと同じようにイリデッセンスを示す石です。このペリステライトについて、ムーンストーン及びラブラドーライトと比較します。これらは一見すると非常に似ており同じ長石族ですが、化学組成が全く異なる別の鉱物です。図1で説明した三角ダイヤグラムのどこに三者が分類されるか、下記図2に示します。
(図2)
図3:ペリステライト | 図4:ムーンストーン | 図5:ラブラドーライト |
*ペリステライト、ムーンストーン、ラブラドーライトは外見的に大変類似しています。 |
イリデッセンスとは、二層のラメラ構造が生み出す光の現象です。ラメラ構造を示す長石は図6で示すように2種類の長石が薄い層を成して順番に積み重なっている構造です。
(図6)
*ラメラ構造とは2種類の薄い層が順に積み重なっている構造。層は波うつ場合もある。
この構造をペリステライトの場合で説明しますと、アルバイトとオリゴクレースは非常に高温の状態では混ざり合う性質にあるのですが、低温では混ざり合いません。高温でアルバイトとオリゴクレースが混ざり合った状態のものが冷やされていくとアルバイトとオリゴクレースの二層が分離し、ペリステライトがもつラメラ構造ができるのです。
ペリステライト、ムーンストーン、ラブラドライトの3種類の比較を下表にまとめました。
ペリステライト、ムーンストーン、ラブラドーライトの3種類の鑑別は上の表をみていただければわかると思いますが、屈折率、比重、その他、基本的な手法で鑑別することは可能です。EDS(蛍光X線分析装置)を用いて化学組成を分析することが、より正確な鑑別につながります。
4.ハイアロフェン
先日、バリウム長石であるセルシアン(BaAl2Si2O8)とオーソクレース(KAlSi3O8)の固溶体であるハイアロフェンについて鑑別する機会を得ましたので紹介します。
このハイアロフェンはボスニアのヘルツェゴビナ産のハイアロフェンで、重量は0.712ctでした。基本的な鑑別パラメータは下表の通りです。
<測定されたハイアロフェンの諸データ>
重量 0.712 ct
屈折率 1.548~1.552
蛍光 赤(短波)
比重 2.87
(図7)
蛍光が短波で赤色を示し、屈折率が1.548~1.552であることから、斜長石系列と一瞬見間違います。しかし比重が2.87もあり、同じ屈折率を示す斜長石と比較すると重い値を示しています。蛍光X線分析装置でこの石を分析した結果、かなりの量のバリウムが含まれていることがわかりました(図8、図9参照)。
(図8)
図9:蛍光X線分析装置によるハイアロフェンの分析結果とX線強度チャート
組成を解析した結果、この石はオーソクレース成分を47%、アノーサイト成分を9%、セルシアン成分を44%含むハイアロフェンであることがわかりました。
結論としてハイアロフェンは屈折と蛍光の性質が斜長石系列に類似しているため、屈折と蛍光の性質だけでは誤鑑別をしてしまう可能性があるということです。これらの石の正確な鑑別には蛍光X線を用いた成分分析を行うことが望ましいと思われます。
5.終わりに
数ある長石族の中で今回はペリステライト、ムーンストーン、ラブラドーライト、ハイアロフェンについて紹介しました。これらは基本的な鑑別手法で鑑別することが可能ですが、ミスのない鑑別には蛍光X線分析装置等を用いた化学分析が必須です。当社では依頼のあった長石族の石に対し確実な分析を行い、正確な鑑別を行っております。