モンゴメリの『赤毛のアン』の主人公アン・シャーリーは、ダイヤモンド嫌いとして描かれています。たとえばこんな風に。
「ずっと前、まだ一度もダイヤモンドを見たことがなかったときに、あたし、本で読んで、どんなものか想像してみて、きっと美しい、ぼうっと光る紫色の石だろうと思ったの。ある日、女の人の指輪にほんとのダイヤモンドを見たとき、あたしがっかりして泣いてしまったの」
無色透明なダイヤモンドより、色のはっきりした「紫水晶」のほうがきれいというのは、いかにも子どもらしい発想ですね。子どもと大人とは価値観が違いますものね。ではいつ透明なものの価値がわかるようになるのでしょうか。つい嘘をついてしまって、そのことに苦しむことを覚えたとき? 知らずに人を傷つけ、そのことで心が震えたとき? 純粋でありつづけることがいかにむつかしいかを知ったとき? 透明なものを大切におもうのは、大人になった証拠かもしれませんね。
さて、大人になったアンは、結婚15年目に夫のギルバートからダイヤのネックレスをプレゼントされます。でももう「がっかりして泣いてしまう」ことはありませんでした。さまざまな艱難辛苦を乗り越えたアンは、ダイヤの価値を深く理解できる大人になっていたのですね。