Gemmy 150 号 「平成21年宝石学会(日本)「ダイヤモンドの分別に有用な機材の開発について」」
技術管理部 江森 健太郎
中央宝石研究所では、無色のダイヤモンドの中からHPHT処理が行われた可能性のあるダイヤモンド、合成ダイヤモンドを粗選別する新しい機材「Diamond-Kensa」(写真1)を開発しました。
写真1:Diamond-Kensa
この機材「Diamond-Kensa」はHPHT処理※の対象となるII型、準II型、IaB型の無色ダイヤモンドと無色合成ダイヤモンドの可能性のあるII型の石を選び出すことが可能です。
※HPHT処理については中央宝石研究所ホームページにあるCGL通信のバックナンバー(Vol.02)に詳しい記載がありますので参考にしてください。
1. Diamondの粗選別とその重要性
無色のダイヤモンドをグレーディングする前に、そのダイヤモンドが「天然」であることを確認し、「処理」、「合成」、「類似石」を分けることが重要です。 類似石であればダイヤモンドとの重さの違いなどで、また含浸処理やレーザードリル処理は拡大検査などで疑いを掛けることが可能ですが、「HPHT処理」と「合成」の鑑別に関してはダイヤモンドのタイプによる分類が有効で、どのタイプに入るかによってHPHT処理や無色の合成ダイヤモンドの疑いを掛けることが出来ます。
このタイプ判別を正確に行う一番の方法は、フーリエ変換型赤外分光装置(FT-IR)を用いることです。 FT-IRを用いると、タイプ判別、窒素濃度の見積もりを比較的簡単に行うことができます。 しかし、FT-IRという機材は非常に高額なため、この機材で一石一石分析していると故障した際にグレーディングのルーチンに大きな支障をきたしてしまいます。ここで、FT-IRの測定の前に、簡単な機材で処理の可能性がある石、合成の可能性がある石を選別し、そこで選別された石を改めてFT-IRで分析する方法が有効かつ便利です。
冒頭でご紹介したDiamond-Kensaは、FT-IRでタイプ判別をする前段階の簡易的な選別に利用する機材として開発したものです。
2. Diamond-Kensaの原理
図1:各タイプのダイヤモンドの分光パターン
HPHT処理の対象となるII型、準II型、IaB型、そして無色合成ダイヤモンドのII型といったタイプのダイヤモンドは、250nm付近の紫外線を通す性質を持っています。一方、無色でHPHT処理も合成も疑わしくないI型のダイヤモンドは250nmの付近の紫外線を通しません(図1参照)。
図2:Diamond-Kensaの基本原理
この原理を利用して、254nmの波長の紫外線をダイヤモンドに照射し、その紫外線がダイヤモンドを抜けることが出来たかをチェックすることで、Diamond-KensaはHPHT処理が疑わしい、ないしは、合成の可能性のある無色のダイヤモンドを分別します(図2)。254nmの波長を用いる理由は、波長254nmの紫外線ランプが殺菌灯として幅広く出回っており、比較的安価に入手できるからです。
3. Diamond-Kensaの製作
図3:Diamond-Kensa試料セッティング部の
ブロック図
Diamond-Kensaは、試料セッティング部と演算部の2つのパーツにわかれています。試料セッティング部のブロック図を図3に示します。
試料セッティング部は、紫外線ランプとインバーター、そして紫外線センサーより成ります。紫外線センサーは、試料を透過する紫外線を調べるセンサーと、ランプの明るさを常時チェックするセンサーの2つが取り付けてあります。II型等の紫外線を透過するタイプのダイヤモンドは、紫外線を透過する性質があると書きましたが、透過するといっても、ほんのわずかな透過です。つまり、この装置は紫外線ランプが一定以上の輝度を保っているかどうかが、重要なポイントになります。ランプの輝度を測定するセンサーを取りつけることで、ランプの状態を常時チェックしていることになります。
写真2は試料セッティング部の内部写真です。 試料セッティング部の下に紫外線センサーが2個、そして紫外線強度を高めるためにランプが2本取り付けてあります。
写真2:試料セッティング部の写真
(左 : サンプルを乗せる部分、中央 : 紫外線センサー、右 : 紫外線ランプ)
図4:演算部のブロック図
演算部のブロック図を図4に示します。センサーから送られてきた信号をアンプで増幅した後、そのデータをA-Dコンバーターで10ビットのデジタル信号に変換し、マイコンで演算します。演算した結果は3色のLEDでOK(HPHT処理、合成の可能性はない)、NG(HPHT処理、合成の可能性がある)、ERROR(ランプの調子が悪い)の3つの結果を表示し、結果に応じて音をならします。 測定された結果はRS232Cを用いてパソコンに転送します。
写真3:演算部の回路写真
写真3は演算部の回路写真です。音を鳴らしたりパソコンと通信する都合上、少々煩雑になっていますが、実際はアンプとマイコンの2つがあればある程度のものは作ることが出来ます。 測定結果を電圧計で判断したい場合は、センサーからの信号をアンプで増幅し、電圧計で測定することでそれが可能になります。
4. Diamond-Kensaの実用性の検証
[1]HRD D-Screenとの比較
HRDのD-Screenとの比較をしました。HRDのD-ScreenはDiamond-Kensaと同じく無色のダイヤモンドでII型のものを選別するための機材です。
石目範囲0.161~5.018ct、色範囲 DからLカラーまでの2510個のダイヤモンドをD-ScreenとDiamond-Kensaの両方でデータを取り比較しました。D-Screenで2496個OK判定、14個NG判定と出たものが、Diamond-Kensaでは2495個OK判定、15個NG判定が出ました。
D-ScreenでNG、すなわち処理や合成の可能性があるという結果が出たものは、すべてこの機材でもNG判定が出ましたが、1個だけD-ScreenでOKのものがDiamond-KensaではNGになっています。FT-IRおよびフォトルミネッセンス検査の結果、この石はIaA型の窒素が少ないタイプのもので、天然と判断しました。
この機材はFT-IRで精密に判断する手間を少なくするためのものですので、ここでNG判定の石が1つ多く出ましたが実際の効率化には影響がないと言えるでしょう。
[2]電圧値の評価
表1:石の諸条件と信号強度
紫外線センサーは、ダイヤモンドを透過した紫外線の量に応じた電圧値を発生させます。アンプで増幅した電圧値の信号強度と『石目』および『カラーグレード』の関係について調べました。
A-Dコンバーターで変換される前の信号強度は、表1で示したとおり、石目に関しては重量が軽いほど信号は強く返ってきます。またカラーグレードに関しては、グレードの高いもの、すなわちDカラーの信号が一番強い傾向にあり、Mカラーだと信号は少し落ちて返ってきます。実際に10ctの石までテストをしていますが、Dカラーのものが十分な信号を返すことを確認しています。
[3]導入による作業効率
中央宝石研究所にソーティングで入った26425個のラウンドブリリアントカット・D~Mカラーのダイヤモンドをこの機材で測定したところ、98.7%の26071個にOK判定、1.3%の354個にNG判定が出ました。354個のNG判定のダイヤモンドについてFT-IRを用いて精密にタイプ判別をしたところ、このうちHPHT処理で色改善を行えるタイプであり、より高度な検査を要するダイヤモンドは0.2%の60個でした。この機械を導入せず、26425個全てをFT-IRにより検査しチェックすると相当な手間がかかりますし、人間の目だけで判定した場合、ミスの出る可能性がないとはいえません。この機材を用いてNG判定の出た354個の石をFT-IRでタイプ判別したほうが速度的にも早く、効率化が望めます。
5. Diamond-Kensaの適用範囲
今回開発した機材は、試料のセッティング部の形状や、その他信号強度の問題から、
・ 重量範囲 0.100ct ~ 3.000 ct
・ 色範囲 D ~ Mカラー
・ 石条件 ダイヤモンド (類似石には対応していません)
が、測定安全保障圏内です。
まとめ
今回行ったDiamond-Kensaの性能検査の結果から、FT-IRでタイプ判別を行う前段階の簡易的な選別に効果があり、日常のグレーディングのルーチンにこの機材を組み込むことによって大幅な効率化を得ることが可能であると証明されました。